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アメリカズカップ

 ヨットレースと言えば、アメリカズカップがその歴史からもヨットの進化の最先端をリードしてきた事からも、まず頭に浮かんできますね。

1851年にアメリカから遠征したアメリカ号が、ロンドン万国博覧会を記念したワイト島一周レースにおいて断トツで優勝を果たしました。そのフィニッシュラインで時のビクトリア女王の質問に<2位はございません、陛下>と侍従が答えた話はあまりにも有名です。1851年は浦賀にペリー提督の黒船が現れた1853年より2年も早い事になり、日本の鎖国時代に既に国際的なヨッティングが展開されていた事を覚えておく必要があります。アメリカ号が持ち帰った純銀のトロフィーはニューヨークヨットクラブに寄贈され、その際の寄贈証書に従って1870年に第一回のアメリカズカップが開催されました。カップは1983年オーストラリアが初めて勝利するまでアメリカが保持し続けました。その後はアメリカ、イタリア、ニュージーランド、スイスがこのカップを奪い合う状態になり、大会に使用される艇も開催地も目まぐるしく変化してきました。100年以上続いたアメリカのカップ保持以降は、歴史と伝統から商業化が高まり使用艇も、マルチハルやフォイリング艇になり第36回になる2021年は、ニュージーランドでの使用艇は75フィートのモノハルフォイリング艇になります。

 このような長い歴史を背景に、常に帆走艇の技術革新の最先端を走ってきたアメリカズカップは国の威信をかけた

大会という事や、莫大な予算が必要な事からビリオネアと多くのスポンサー企業が名を連ねています。艇とそれに装備される艤装やセールの進化は一般のレースボートやプロダクションボートにも進化の恩恵をもたらしました。このような先鋭化した艇の乗員には高い技術と、長期間のトレーニングが必要でプロレーサーを生み出してきました。

また、ヨットレースのTV中継でのバーチャルラインや各艇のスピード表示、レースコース上の風情報表示技術の導入は、判りにくいヨットレースを一般にも楽しめるものにしました。何よりも艇の絶対的なスピード向上やダイナミックな動作は、レース経験者しか楽しめないヨットレースを一般にも親しませる事(興業化)にも成功しました。チャレンジャーシリーズはフリートレースですが本戦はマッチレースで戦われ、これも判りやすいヨットレースと言えるでしよう。

 このように肥大化したアメリカズカップは、この先どの方向に進んで行くのでしょうか?アメリカズカップは最古のスポーツイベントであり、インショアでの世界最高のヨットレースです。しかしながら、ヨットレースには様々な

種類があり、オリンピック競技から世界一周レースなどの外洋レースについても様々な条件でのイベントが人気と注目を集めています。ヨットレースも多様化時代に入っています。現状でのアメリカズカップに参加するために必要な

予算を支える正当性や意義と採算性を何時まで維持できるのでしょうか?きっと近い将来に新しいアメリカズカップ

のフォーマットは来るべき時代に適合したフォーマットが組まれると思います。そしてそれがセーリングスポーツにとって好ましいものとなる事を祈ります。